浅田進史研究室/歴史学

研究・教育・学会活動ノート

2020年度歴研大会特設部会準備ノート(6)――九州歴史科学研究会主催「若手研究者問題を考える」(2013年)の振り返り(暫定版)

 

 

はじめに

 西洋史若手研究者問題検討ワーキンググループの活動を振り返る投稿は、あと3~4回ほど続きます。学会とは独立した有志の活動として考えると、やはり目を見張るものがあります。
 2013年5月に京都で開かれたアンケート調査報告会の後、このWGのメンバーはほかの学会・研究会にも招かれて、以下の2つの報告討論会に参加しました。

 いずれもわたしは参加していないのですが、WG内で共有された資料が手元にありました。あまり問題が生じない範囲で紹介します。
 今回は、九州歴史科学研究会主催の企画を取り上げます。こちらの記録は、同会が発行する学会誌『九州歴史科学』第41号(2013年12月)に掲載されています。同号の目次については、九州歴史科学研究会ホームページこちら(2014年5月6日投稿記事)を覧ください。同号は研究室のどこかにある気がしますが、すぐに見つけられないので、また後日確認します。ひとまず今日の振り返りは暫定版とさせてください。

 

1 当日のスケジュール

報告

  1. 崎山直樹「西洋史は衰退するのか?――アンケート調査と2013年度科研費実績を中心に」(※学会誌掲載原稿のタイトルは「西洋史は衰退するのか?――西洋史若手WGのアンケート調査を踏まえて」)
  2. 藤田祐「西洋史若手研究者問題をめぐる論点――ワーキンググループの活動から」

討論テーブル

  1. 古城真由美「九州の西洋史・女性研究者の立場から」
  2. 戸川貴行「東洋史の立場から」
  3. 石畑匡基「日本史の立場から」

 

2 各報告について

 崎山報告は、基本的に2013年5月の京都での報告と同じ内容ですので、こちらをご覧ください。
 続く藤田報告は西洋史若手研究者問題検討WGのこれまでの活動と論点を整理したうえで、ジェンダーの視点を組み込んだものです。
 また、前述の通り、この2つの報告は『九州歴史科学』第41号に掲載されています。手元のデータのなかに藤田さんの論考PDFがあったので、ここで振り返ることができました。この論考は、これまでの西洋史若手研究者問題検討WGの活動と論点を丹念に整理されており、崎山さんの報告とともに、学会誌に掲載された貴重な記録ですね。
 討論テーブルの3つのコメントは、それぞれの立場から個々の経験が紹介されました。

 最初の西洋史・女性研究者の立場からの古城さんのコメントは子育てしながら大学非常勤講師として働く女性研究者の経験として重要だと思います。

 東洋史の戸川さんのコメントは、新しい大量の史料の翻訳・読み込みに追われる現実や日中関係の悪化が修士課程の大学院生を激減させていることなどが指摘されました。現在でも、日中関係・日韓関係の悪化が東洋史を志望する院生を減少させる状況は続いているのではないでしょうか。
 最後の日本史の石畑さんのコメントは、九州の日本史の大学院生の研究・学会活動を概観したものでした。

 

3 全体討論

 さて全体討論について、いくつか気になったコメントを列挙しておきましょう。

  • かつての若手研究者問題との違いについて

 「経済的に苦労しながら就職を目指す」というのは昔からあったと思われる。現在に特化した問題とは何か。
 1980年代のオーバードクター問題は、その後に世代として数の多い団塊ジュニアが大学に進学したことで、大学が増設し、ポストが増加する形で一区切りがついた。しかし、2000年代のそれは、少子高齢化によって学生が減少するので、そのような見通しはなく、すでに人文社会科学の機関もポストも減少しており、「自分の研究さえやっていれば道ができる」という物語が消えてしまった。この「未来がみえない」状況が違いではないか。

 このポストの増減については、長期的なデータが必要ではないか。

  • 「未来がみえない」

 実際に、就職の未来は描けず、同期は精神を病み、行方不明になっている。とにかく業績を挙げるように指導されたことで、道ができたものの経済的には厳しい。年収300万円以下になるとは思っていなかった。

  • 「みんな研究する時間がないなかで、われわれにもできることがあると気づいた」

 ネットワークと技術を活用して、地理的不利を克服する可能性がある。

 大学院修了後の図書館アクセスについても協力できるのではないか。

  • 「若手の問題を若手だけの問題にしてはいけない」

 歴史学全体の将来への問題として認識すべきである。研究者の再生産の問題として考える必要がある。地方だけでなく首都圏でも大学院生が減少しており、壊滅的な状況である。

  • 「博士課程がプロの研究者を育成する機関として存在する時代は終わった」

 大学院の存在価値をどう持たせるか。院生を増やそうとしていた時代だから院に進学できた受益者でもある。どうやってこの世代を意味ある存在にできるのか。成果を出しこと、一般書を書くことが大切ではないか。数の多い世代だからこそ、一般書を書くべきではないか。一番、歴史研究者と社会が共有すべきは歴史学的思考法ではないか。

 

まとめ

 「若手研究者問題を若手だけの問題にしてはいけない」という発言は、もう共通認識になっていてほしいのですが、現状はどうでしょうか。また、今回の報告会で藤田さんがジェンダーの視点に踏み込み、また古城さんのご自身の経験からの発言があったことは、2020年度歴史学研究会特設部会との関連でも重要だったと思います。
 歴史系に絞ってポストの増減について長期的データを整理することは難しい気がします。人文社会科学系研究者数の推移を調べようと、文部科学省の『学校基本調査』と総務省統計局の『科学技術統計研究調査』で分析したことがあります。あらためて整理してみるつもりです。
 最後に、「未来がみえない」世代という議論は、いま振り返ってみて、当時を象徴している気がします。そのうえで、大学院の存在価値について真剣に討論していることの重みを感じます。この時点から7年経て、現在はどうでしょうか。歴史学研究会特設部会のテーマである、若手研究者にとっての「生きづらさ」の核心を突いた発言かもしれません。