浅田進史研究室/歴史学

研究・教育・学会活動ノート

ナチ党の権力掌握とヴィルヘルム・フォン・プロイセン――クリストファー・クラークへのインタビュー記事ほか

 まだ経緯をしっかり理解しているわけではないのですが、ヴァイマル共和国の崩壊とナチの権力掌握におけるホーエンツォレルン家、具体的には最後の皇太子であったヴィルヘルム・フォン・プロイセンの役割がドイツのメディアでかなり議論になっています。ホーエンツォレルン家は第二次世界大戦終了時にソ連によって没収された不動産への賠償を国家に要求しているとのことです。

 2011年にイギリスのドイツ近現代史家クリストファー・クラーク氏はホーエンツォレルン家の要求を支持する所見を書きました。昨今のホーエンツォレルン家をめぐる議論を背景に、フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング紙は、この問題について改めてクラーク氏にインタビューを行い、2020年11月4日付のオンライン版に掲載しました。

 

 

 この記事のなかでクラーク氏は、新しい史料に基づいた研究が蓄積された成果を踏まえて、「ヴァイマル共和国の最終局面における一時期があり、そこで皇太子〔ヴィルヘルム・フォン・プロイセン〕は重要な政治的アクターになった、それはおよそ1931年秋と1932年夏の間の時期だ」と指摘しています。

 そして、この間のヴィルヘルム・フォン・プロイセンの動向を詳述し、彼をナチの権力掌握を促した重要な人物であったと結論づけています。さらに、問題設定を広げてドイツにおける民主政の破壊の過程における彼の役割を評価するならば、「この出来事のなかで大きな影響力を及ぼした人物」であり、そこで首尾一貫した行動を取っていたといいます。

 

 第一次世界大戦研究では、2012年に出版されたクラーク氏の研究は大きな話題になりました。小原淳さんの日本語訳があります。

 

 

 また、この問題については、ペーター・ブラント氏のインタビュー記事もあります。全体の経緯を知るにはこちらの方が分かりやすいかもしれません。リンクを貼っておきます。

 

 

 ホーエンツォレルン家の賠償要求と関連して、2020年4月に刊行された Zeitschrift für Geschichtswissenschaft の第68巻第4号で特集が組まれています。

 

 

 同号に掲載された論考のなかで、この記事に直接関わる論考は以下の3本ですね(未見です)。

 

  • Matthias Grünzig: „Die Geburtsstätte des Dritten Reiches.“ Netzwerkbildung antidemokratischer Kräfte in Potsdam während der Weimarer Republik
  • Constantin Goschler: Prinzen, Bürger und Preußen. Die Eigentumsfrage in Ostdeutschland und die Entschädigungsforderungen der Hohenzollern
  • Sophie Schönberger: Wiedergänger. Die Entschädigungsforderungen der Hohenzollern zwischen Geschichte, Recht und politischer Gestaltung

 

 ジェフ・イリー氏の寄稿も気になります。

 

  • Geoff Eley: Mastering Which Past?