1980年代のいわゆるドイツ「特有の道」論争で知られるイギリスのドイツ近現代史家リチャード・J・エヴァンズは、ハンブルクで警察が居酒屋での労働者層の会話を記録した史料を編集しました。
- Richard J. Evans (Hg.), Kneipengespräche im Kaiserreich: die Stimmungsberichte der Hamburger politischen Polizei 1892-1914, Hamburg: Rowohlt, 1989.
2020年12月15日、この内容をまとめた解説記事がシュピーゲル紙のオンライン版に掲載されました。
当時、ハンブルクは「赤い都市」、つまり革命運動が活発な地域と見なされていました。とくに、1892年にハンブルクでコレラが蔓延し、9000人もの死者を出したことによる社会不安から、ハンブルクの政治警察は集会やデモのみならず、居酒屋の風潮も監視の対象としました。
居酒屋の労働者たちは皇帝、植民地主義、艦隊政策、あるいは女性運動のような政治的テーマ、あるいは病や死、環境のような日常のテーマをどのようにみていたのか。この論説記事では、これらのテーマについても簡潔に紹介されています。
関連する参考文献として、以下の本が紹介されています。
- Frank Bösch, Öffentliche Geheimnisse: Skandale, Politik und Medien in Deutschland und Großbritannien 1880-1914, München: Oldenbourg, 2009.
リチャード・J・エヴァンズの本については、日本語の訳書がいくつか出版されていますね。『歴史学の擁護』(晃洋書房、1999年)、『第三帝国の到来』(白水社、2018年)、『力の追求』(上・下、2018年)です。
ドイツ「特有の道」論争関連での彼の論考が掲載された書籍はこちら。
こういう論争を紹介する翻訳は重要ですよね。
また、リチャード・J・エヴァンズが出演するホロコーストをめぐる論争についての映画もどうぞ。原題は「否定(Denial)」なのに、どうして「否定と肯定」という日本語タイトルにしたのですかね。あたかも二つの主張が同列にあるかのように、勘違いさせることを懸念します。映画をみると、その翻訳行為自体がいかに問題かがわかると思います。