はじめに
ドイツ帝国創建150年ということで、以前にこのブログで、ドイツ連邦政治教育センター発行の雑誌 Aus Politik und Zeitgeschichte 特集号を紹介しました。*1
そのほかにも関連記事・論説がインターネット上で公開されています。気づいたものをここで紹介しておきます。
1.エッカート・コンツェ『ドイツ帝国の影』をめぐって
まず、ドイツ近現代史家エッカート・コンツェ(Eckart Conze)氏の近著『ドイツ帝国の影(Schatten des Kaiserreichs)』を紹介する書評です。
この書評のタイトルは「ノスタルジーに浸る理由はない」という意で、ドイツ再統一後、ドイツ帝国がもつ論争的な部分が忘却されてしまったことを批判しています。つまり、1870・71年の「独仏戦争」(日本ではまだ普仏戦争という表記が一般的ですが、ドイツでは現在このように表記されます)の結果として成立した「国民国家」としてのドイツという理解は不十分だというものです。帝国創建による国民統一という思想がいかに「左」から「右」へと変容したかを問うています。ひさしぶりに「ヤヌスの顔」という表現をみました。ドイツ社会構造史を牽引したハンス=ウルリヒ・ヴェーラーを思い出します。懐かしいです。
2021年1月14日、このエッカート・コンツェ氏に加えて、ミヒャエル・エプケンハンスとヘートヴィヒ・リヒター両氏の3人によるラジオ討論番組が SWR2 で開催されました。リンク先はこちら。
『ブレッター(Blätter)』という政治評論誌の2021年12月号に、エッカート・コンツェ氏が「記憶文化的な右翼転回――1871年から150年とドイツ帝国をめぐる解釈闘争」という論説を寄稿しました。リンク先はこちら。*2
2.女性運動
デジタルドイツ女性アーカイブ(Digitales Deutsches Frauenarchiv)のウェブサイトで、2021年1月18日に「ドイツ帝国創建と女性運動」と題した、ヘートヴィヒ・リヒター氏へのインタビュー記事が掲載されました。リンク先はこちらです。*3
3.ビスマルク
同じくドイツ再統一と関連づけた現代的視点から論じた、ビスマルク家を研究したアヒム・エンゲルベルク氏による記事はこちら。
4.反ユダヤ主義
教育学者ミヒャ・ブルムリク氏による反ユダヤ主義の新局面としてドイツ帝国の創建をみる論説はこちら。
5.ドイツ連邦文書館のヴァーチャル展示
ドイツ連邦文書館のウェブサイトで、ドイツ帝国創建150年をテーマに「帝国創建からドイツ統一へ」と題されたヴァーチャル展示が公開されました。*4
また、ドイツ帝国宰相府の史料(R 1401)を紹介した動画はこちら。すでに1867年から1879年までデジタル化が完了したとのことです。
6.ユルゲン・コッカ氏インタビュー
2021年4月16日、デア・ターゲスシュピーゲル紙オンライン版に、ドイツ帝国創建150年を機に、とくにその社会法制と1990年の東西ドイツ再統一について、ユルゲン・コッカ氏へのインタビュー記事が掲載されました。*5
7.ヘートヴィヒ・リヒターの所論をめぐって
Hedwig Richter, Aufbruch in die Moderne: Reform und Massenpolitisierung im Kaiserreich, 2021(近代への出発――ドイツ帝国における改革と大衆政治化)が論議を呼んでいます。同書を帝政期を楽観的に描いていると批判する論説「支配ではなく調和」が、2021年4月28日、左派のドイツ語雑誌 Jacobin に掲載されました。*6