浅田進史研究室/歴史学

研究・教育・学会活動ノート

「これは非ナチ化ではなく、ホロコーストの歪曲・軽視だ」――シュピーゲル誌のインタビュー記事より

 2022年2月28日、ベルリンの代表的な週刊誌『シュピーゲル』のウェブサイトに、ロシア大統領ウラジミール・プーチンウクライナ侵攻を正当化する際に、「非ナチ化」だと主張することを批判するインタビュー記事が掲載されました。

 

 

 インタビューを受けた人は、ナチ強制収容所ブーヘンヴァルトおよびミッテルバウ=ドーラ追悼施設を管理するブーヘンヴァルト=ドーラ国際委員会の理事会、その副議長を務めるカミル・マイクシャク(Kamil Majchrzak)さんです。

 冒頭のインタビューのやりとりを紹介します。

 まず、インタビュワーがプーチンの「非ナチ化」のように、今回のウクライナ侵攻と第二次世界大戦がしばしば比較されるが、この種の比較が第二次大戦に犠牲となった人たちの団体と証言者にとってどういった意味があるのかと問います。

 これに対して、マイクシャクさんは、ロシアのウクライナへの違法な襲撃を「脱ナチ化」あるいは民族虐殺の阻止といって正当化することがたんに現実を捻じ曲げるだけではなく、受け入れがたく、冷笑的なナチ犯罪の歪曲だと非難しています。

 彼は、IHRA(International Holocaust Remembrance Alliance[国際ホロコースト想起同盟])は、ホロコーストの軽視を深刻な脅威だとくりかえし指摘してきたといいます。そのうえで、ロシアはIHRAに加盟していないが、ホロコーストの否認を規制する独自の法律をもっており、今回のウクライナ侵攻を「非ナチ化」のように印象操作することは、この法に反するものであると示唆しています。そして、第二次大戦中に多くのドイツ強制収容所を解放したソ連の名声を傷つけるものだと非難しています。

 ロシアのウクライナ侵攻に対するブーヘンヴァルト・ミッテルバウ=ドーラ追悼施設の非難声明はこちらです。

 

 

 この非難声明には、ブーヘンヴァルトおよびミッテルバウ=ドーラの2つの強制収容所ウクライナ人生存者2名が4月に強制収容所解放77周年記念式典のために参列する予定だったけれども、おそらく難しいだろうと指摘されています。そのうちの一人、Petro Mishchukさんは、「唯一のメッセージ、すなわちすべての諸国民の平和と自由!平和がこの世で最も重要なことです。」とメッセージを寄せてくれたとのことです。

 

*2022年3月17日、「脱ナチ化」を「非ナチ化」に修正しました。