浅田進史研究室/歴史学

研究・教育・学会活動ノート

反ユダヤ主義についての教材リーフレット――ローザ・ルクセンブルク財団より

 2023年8月にローザ・ルクセンブルク財団より刊行された『反ユダヤ主義を定義する?――政治教育事業のための助言』というタイトルの冊子を知りました。

 

 

 2年ほどの間、反ユダヤ主義研究センターの学際的な研究グループが、反ユダヤ主義の定義と概念をめぐる問題と集中的に取り組んできたそうです。そのきっかけは、メディアでの反ユダヤ主義の定義をめぐる論争があまり生産的でなかったことが指摘されています。

 そのため、上記の研究グループは、多元的な視点からこのテーマについてアプローチするハンドブックを編集しており、その要約版として、ここでリンクを貼ったリーフレットを先行して発表したとのことです。副題にもあるように、教材としての活用が念頭に置かれています。

 

1945年以降のハンブルクにおける右翼の暴力を記録するウェブサイト

 「1945年以降のハンブルクにおける右翼の暴力」というウェブサイトを知りました。リンクを貼っておきます。

 

 

 「地図」、「年表」、「テーマ」、「用語集」の項目が立てられ、それぞれのページで整理されています。 

 "Hamburg rechtsaußen. Rechtsextreme Gewalt- und Aktionsformen in, mit und gegen städtische Gesellschaft 1945 bis Anfang der 2000er Jahre(HAMREA、ハンブルク右翼――1945年から2000年代初めまでの都市社会における/とともに/に対した極右暴力と行動形態)"という研究プロジェクトの成果を公開するものです。

 地図と年表の整理が参考になります。

 

創設から1990年までのドイツ連邦憲法裁判所の訴訟資料が利用可能に

 かなり以前のニュースですが、2023年9月11日にドイツ連邦文書館のプレスリリースで、ドイツ連邦憲法裁判所に関する、1951年の創設から1990年までの期間の訴訟資料が利用可能になったことが発表されました。

 

 

 その訴訟関連文書は、訴訟手続文書、別冊、手稿、付録からなり、裁判所の作業手順から決定まで詳細に閲覧できるとのことです。その件数は11万件で、2016年に開始されたこのプロジェクトを通じて、ようやくファイルの査定を終え、公開にいたったと述べられています。

 たとえば、1950年代・60年代の判事の手稿について指摘され、なかでもドイツ憲法裁判所の最初の女性判事である、エルナ・シェフラーによる男女の同権を目指した資料にその尽力が明確になると紹介されています。

 

ブレーメン・アフリカ資料館の検証作業終了報告書について

 ブレーメン大学のワーキンググループ「ブレーメンの植民地史と現在(Bremens koloniale Geschichte & Gegenwart | Bremen's Colonial History Working Group)」というホームぺージに、ブレーメン・アフリカ資料館(Bremer Afrika Archiv)の収蔵物を検証するプロジェクトの紹介とその作業終了報告書が掲載されていることを知りました。リンクはこちらです。

 

 

 この検証作業は、2023年8月から12月の期間に行われました。作業終了報告書はPDFでダウンロードできます。

 ブレーメン・アフリカ資料館は1975年に、ブレーメンの開発政策およびアフリカ関係事業を集約する目的で設立されたとのことです。ブレーメン州植民地主義検証のための特別プログラムの資金によって、この資料館が収集した約250箱の史資料が整理され、目録が作成されました。

 収蔵資料を紹介しながら、この事業の意義を紹介する動画もアップされています。

 

 同資料館とその収蔵物は、ブレーメン植民地主義についての初期的な記憶作業の一つの証拠になるとのことです。1970年代末以降、同資料館はいわゆるナミビア・プロジェクトの担い手となりました。それはブレーメン大学とルサカにある国連の施設ナミビア・インスティテュートとの間の協力プロジェクトです。当初より、そのプロジェクトはアパルトヘイトへの闘争とSWAPOとの連帯の色彩を帯びていたと述べられています。

 以下に、この資料館とナミビアとの関係を、脱植民地化の関係から説明されています。初期植民地的記憶の検証の例として、ヨーロッパ中に広がった反アパルトヘイト運動にブレーメンが加わり、1989年、もともとかつてのドイツ植民地支配を称える記念碑であった巨大なゾウの石像が、反植民地的記念碑へと再解釈されたことが紹介されており、興味深いです。

 

21世紀のグローバルな記憶を議論するドイツ語新刊書について

 研究メモです。

 2023年10月に、21世紀におけるグローバルな記憶文化を議論する新刊書が出ました。出版社のウェブサイトからの紹介ページをリンクしておきます。

 

 

 著者のミルヤム・ツァドフさんは、ミュンヘンのナチ記録資料センター所長です。

 出版社による本書の紹介文を要約します。

 

 今日の各地の社会では、戦争と差別についての様々な経験によって、ときに数世代にもわたって刻印された経歴をもつ人びとが共生している。著者は歴史を過去から現在の問いに答える力と理解する。ここでは世界中から、多様な形で暴力の歴史への記憶が呼び起こされ、あるいは忘却される事例が集められている。たとえば、イタリアでのユダヤ系住民の強制移送、日本での強制性売買、ヨハネスブルクでのホロコースト植民地主義の犠牲者である。そのために、その生のなかで歴史によって暴力の痕跡が残されている、すべての人間を含むグローバルな記憶文化が結びつけられている。

 

 ローザ・ルクセンブルク財団のウェブサイトで書評が出ています。