浅田進史研究室/歴史学

研究・教育・学会活動ノート

『エマ・ゴールドマンとロシア革命』(2020年)――オープンアクセスの研究書

 『エマ・ゴールドマンロシア革命――賞賛から落胆へ』と題した本のPDF版がただいまオープンアクセスでダウンロードできます。

 

 

 本書の紹介文では、まずロシア革命が世界中の左翼知識人に歓迎されながらも、そしてその歓喜は長く続かず、落胆・失望へと変化したことが指摘されています。そのうえで、帝政ロシア領であったリトアニアに生まれ、アメリカ合州国無政府主義者として活動したエマ・ゴールドマンロシア革命観を問います。

 本書では、越境する革命家であり、左翼知識人の思想の転換の一例として、彼女の生涯と思想が分析されています。また、1917年から1920年代初頭までの時期が対象とのことです。

 

1938年の11月ポグロムの記憶――ローザ・ルクセンブルク財団ウェブサイトより

 2020年11月9日、ローザ・ルクセンブルク財団ウェブサイトに、ナチ迫害を逃れた祖父をもつミヒャエル・ブリー氏による回顧録が掲載されました。

 

 

 オンライン版のみの掲載です。ブリー氏はローザ・ルクセンブルク財団で社会主義体制移行研究と社会主義の歴史を担当しています。

 最初に、1954年生まれのミヒャエル・ブリー氏にとっても、1938年11月9日から10日に起きた「ポグロムの夜」以降の家族の歴史を語ることは難しいと述べています。繰り返し、絶滅収容所に移送され、ガス室で殺害される人々を見る悪夢にうなされるといいます。

 1934年、ベルリン・カールスホルストの名も知らない警官が、彼の祖父、アルトゥーア・ブリー氏に逮捕の一時間前にその計画を警告しました。祖父の共産主義運動の地下活動に関わっていたため、ヒトラーの政権獲得後、アルトゥーアとその家族はすぐに国外逃亡の準備を強いられました。祖父とその家族の国外逃亡には、ドイツ=ボヘミア共産主義者ユダヤ系の友人、ポーランドの組織、イギリス政府が支援し、1939年夏、第二次世界大戦開戦前にダンツィヒに係留していた最後の船でようやく出発できたとのことです。

 この回顧録は、11月ポグロムの日に合わせて、現在への警句として執筆されました。上記で紹介したような家族の逃亡の記憶のほか、アウシュヴィッツと戦後についての省察が綴られています。

 

ナチ党の権力掌握とヴィルヘルム・フォン・プロイセン――クリストファー・クラークへのインタビュー記事ほか

 まだ経緯をしっかり理解しているわけではないのですが、ヴァイマル共和国の崩壊とナチの権力掌握におけるホーエンツォレルン家、具体的には最後の皇太子であったヴィルヘルム・フォン・プロイセンの役割がドイツのメディアでかなり議論になっています。ホーエンツォレルン家は第二次世界大戦終了時にソ連によって没収された不動産への賠償を国家に要求しているとのことです。

 2011年にイギリスのドイツ近現代史家クリストファー・クラーク氏はホーエンツォレルン家の要求を支持する所見を書きました。昨今のホーエンツォレルン家をめぐる議論を背景に、フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング紙は、この問題について改めてクラーク氏にインタビューを行い、2020年11月4日付のオンライン版に掲載しました。

 

 

 この記事のなかでクラーク氏は、新しい史料に基づいた研究が蓄積された成果を踏まえて、「ヴァイマル共和国の最終局面における一時期があり、そこで皇太子〔ヴィルヘルム・フォン・プロイセン〕は重要な政治的アクターになった、それはおよそ1931年秋と1932年夏の間の時期だ」と指摘しています。

 そして、この間のヴィルヘルム・フォン・プロイセンの動向を詳述し、彼をナチの権力掌握を促した重要な人物であったと結論づけています。さらに、問題設定を広げてドイツにおける民主政の破壊の過程における彼の役割を評価するならば、「この出来事のなかで大きな影響力を及ぼした人物」であり、そこで首尾一貫した行動を取っていたといいます。

 

 第一次世界大戦研究では、2012年に出版されたクラーク氏の研究は大きな話題になりました。小原淳さんの日本語訳があります。

 

 

 また、この問題については、ペーター・ブラント氏のインタビュー記事もあります。全体の経緯を知るにはこちらの方が分かりやすいかもしれません。リンクを貼っておきます。

 

 

 ホーエンツォレルン家の賠償要求と関連して、2020年4月に刊行された Zeitschrift für Geschichtswissenschaft の第68巻第4号で特集が組まれています。

 

 

 同号に掲載された論考のなかで、この記事に直接関わる論考は以下の3本ですね(未見です)。

 

  • Matthias Grünzig: „Die Geburtsstätte des Dritten Reiches.“ Netzwerkbildung antidemokratischer Kräfte in Potsdam während der Weimarer Republik
  • Constantin Goschler: Prinzen, Bürger und Preußen. Die Eigentumsfrage in Ostdeutschland und die Entschädigungsforderungen der Hohenzollern
  • Sophie Schönberger: Wiedergänger. Die Entschädigungsforderungen der Hohenzollern zwischen Geschichte, Recht und politischer Gestaltung

 

 ジェフ・イリー氏の寄稿も気になります。

 

  • Geoff Eley: Mastering Which Past?

 

「新しい女性運動の女性パイオニア」――FrauenMediaTurmについて

 2020年10月19日、デジタルドイツ女性アーカイブ(Digitales Deutsches Frauenarchiv、DDF)にケルンのフェミニズム資料館・図書館、フラウエン・メディア・トゥルム(FrauenMediaTurm、FMT、女性メディア塔の意)が「新しい女性運動の女性パイオニア」という紹介記事を掲載しました。

 

 

 これはデジタルドイツ女性アーカイブが2020年の1年間に助成したプロジェクトを紹介する記事です。そのプロジェクトはドイツ連邦共和国フェミニズム運動草創期の活動家たち13名へのインタビューと関連図像の公開に取り組むものです。

 

 フラウエン・メディア・トゥルムのウェブサイトはこちらです。

 

 

 ウェブサイトの充実ぶりに圧倒されます。

 

 これまでにデジタルドイツ女性アーカイブに掲載された関連論説も推奨されていまして、それらの論説へのリンクも貼っておきます。

 

 

国際レズビアンデーによせて――デジタルドイツ女性アーカイブの史資料検索

 だいぶ情報が遅れましたが、10月8日は International Lesbian Day とのことで、2020年10月8日にデジタルドイツ女性アーカイブ(Digitales Deutsches Frauenarchiv)は、同ウェブサイトの検索窓から "Lesben Öffentlichkeit" で検索することをおススメしていました。

 その結果のリンクがこちらです。

 

 

 2021年2月15日時点で、2万5000件以上のヒットがありました。デジタル化された人物評、史資料、論文、ブログ記事、書籍、評論、映像記録、学位論文、物品、定期刊行物、録音記録、図像、ウェブサイトが含まれています。

 ドイツの女性同性愛運動史を研究したい人には、ぜひチェックしてもらいたいです。