浅田進史研究室/歴史学

研究・教育・学会活動ノート

「1つの出版社、3つの生、数多くの歴史」――ディーツ出版社について

 マルクスエンゲルス全集(Marx-Engels-Werke, MEW)で知られる、カール・ディーツ出版社(Karl Dietz Verlag Berlin)ですが、そのホームページに出版社の歴史を振り返る記事が掲載されました。

 

 

 まずリード文では、同社は、現在、マルクスエンゲルス全集のほか、マルクスによって社会諸関係とその矛盾をよりよく理解するという目的をもって、政治経済学批判と資本主義分析の理論上の論争についてのアクチュアルな論考を出版している、とのことです。

 その例として、ローザ・ルクセンブルク全集と共産主義・左翼社会主義に関する「赤いシリーズ(Roten Reihe)」が紹介されています。

 

 

 そのほか、この記事のタイトルにある「3つの生」が綴られています。

 まず、その第一の生は、ドイツ民主共和国時代のドイツ社会主義統一党中央出版機関の役割を担ったことが「困難な遺産」の時代にあたります。その当時の出版事業が紹介されています。

 

 次の第二の生は、1989・90年の東西ドイツ統一に始まります。ディーツ社は、スターリニズム権威主義的な国家社会主義を見直す重要なメディアとなり、また民主主義的な社会主義の可能性についての論争の担い手となったそうです。

 ただし、ディーツ社は、ドイツ社会主義統一党に運営された出版社として清算されました。1997年に、国際マルクスエンゲルス財団(Internationale Marx-Engels-Stiftung, IMES)は、マルクスエンゲルス全集(Marx-Engels-Gesamtausgabe, MEGA)の出版元をアカデミー出版社(Akademie-Verlag)で編集することを決定しました。それにより、ディーツ社はMEGAという柱を失うことになりました。

 

 このMEGAの喪失が、ディーツ社の第三の生の開始として位置づけられています。出版社の名称をめぐるボンのドイツ社会民主党の機関出版社である J. H. W. Dietz Nachf. との法的闘争を経ながらも、Karl Dietz Verlag としてDietzの名称を維持することができました。ボンのホームページでは略称がDietz、ベルリンの方は Dietz Berlin になっています。その後、カール・ディーツ社はドイツ社会主義統一党の後継政党PDS(現左翼党)によってミヒャエル・シューマン財団に売却され、その財団は現在、クラーラ・ツェトキン財団になっています。

 そして、この第三期では、スターリニズムからの名誉回復を意図した『ドイツ共産主義者人物事典(1918-1945年)』(Hermann Weber/ Andreas Herbst (Hrsg.), Deutsche Kommunisten: Biographisches Handbuch 1918 bis 1945, Karl Dietz, 2008)を出版したり、 "Analyse" や "Theorie" といったシリーズ名による新しい刊行プロジェクトに取り組んでいるとのことです。