浅田進史研究室/歴史学

研究・教育・学会活動ノート

ドイツ革命期労働運動の地域史――現ザクセン=アンハルト州の事例から

 2020年7月18日、ローザ=ルクセンブルク財団のウェブサイトに以下の冊子が掲載されました。自由にダウンロードできます。リンク先は以下の紹介ページからどうぞ。

 

 

 この冊子の紹介文では、1970年代以降、西ドイツでは社会文化史的な視角による研究が始まったものの、冷戦後、ふたたび狭義の運動史に視野が狭まったのではないか、と現在の労働運動史の研究状況を批判しています。そのうえで、近年、また労働運動史への関心が高まったことを指摘しています。

 ここに掲載された研究は、1914年から1920年までの現在のザクセン=アンハルト州を対象とした地域の革命史です。なかでもザクセン=アンハルト南部のレーテ運動の代表的人物、ヴィルヘルム・ケーネン(Wilhelm Koenen)、そしてマグデブルクのレーテ運動に焦点が当てられていると紹介されています。

 著者のヴィンセント・シュトライヒハーンさんはマルクス主義フェミニズム理論、ドイツ労働運動・女性運動を専門とする政治学者です。2019年以降、「ドイツ帝国における社会主義と女性解放」をテーマに博士号取得を目指しているとのことです。

 

【追記、2021年2月3日】

 2020年10月7日、ヴィンセント・シュトライヒハーンさんの論説がドイツ語雑誌 Jacobin 誌のオンライン版に掲載されました。

 

 現在では保守的で停滞しているとみなされがちなザクセン=アンハルト地域の労働運動史を再検討するものです。1918年11月のドイツ革命では、マグデブルクおよびハレ=メルゼブルク周辺の工業地域が革命的労働運動の中心であったと解説しています。

 

ドイツにおけるブラック・スタディーズの緊急性にかんする7つのテーゼ――Generation Adefraより

 Generation Adefraというウェブサイトを知りました。このサイトを運営するADEFRA e. V. はドイツの黒人女性による、黒人女性のための「文化政治フォーラム(ein kulturpolitisches Forum)」と説明されています。

 

 

 ドイツにおける黒人運動の存在とその形成にとって、黒人女性の活動が中心的な位置を占めており、ドイツの場合、1980年代の黒人レズビアン活動家たちが重要だったと説明されています。

 そのウェブサイトに「ドイツにおけるブラック・スタディーズの緊急性にかんする7つのテーゼ(Sieben Thesen zur Dringlichkeit von Black Studies (in) Detuschland - Angeschichts der beginnenden Institutionalisierung von Rassismusforschung als Integrationsforschung)」が公開されました。これはローザ・ルクセンブルク財団の2020年7月21日付の情報で知りました。「7つのテーゼ」へのリンクはこちらです。

 

 

 このテーゼのきっかけは、2020年7月、ドイツ統合・移民研究センター(Deutsches Zentrum für Integrations- und Migrationsforschung, DeZIM)がドイツ連邦議会より、ドイツ社会のなかの人種主義を監視する「人種主義モニター」を作成するために、今後3年にわたって計900万ユーロの助成を受けることが決定したことです。DeZIMのプレスリリースはこちらからどうぞ。

 

 

 7つのテーゼに話を戻しましょう。ドイツにおける人種主義を研究する際に、もっぱらDeZIMに助成を行うことに対して、Adefraは批判しています。そのうえで、以下の7つのテーゼを掲げています。それぞれに簡単な解説をつけておきます。

 

 1)越境的・ディアスポラ的な運動史の知の承認

 ブラック・ライヴズ・マター運動のような国境を越えた運動の知の重要性を認めるように訴えています。

 

 2)反黒人的人種主義にかんする研究の認識論上の重要性の承認

 このテーマは白人研究者が自らのキャリアのために新しいテーマを生み出す市場となるべきものではなく、黒人研究者および黒人の(集合な)知の生産との交流を求めています。

 

 3)統合・移民モデルの克服

 既存の統合・移民モデルが人種主義的な生活現実を家父長主義的、またパトロン=クライアント関係のように扱うものとして批判しています。

 

 4)ロビー活動主義に代わる代表性

 人種主義の生活現実が政治・学問・メディアの空間で周縁化され、一時的にしか扱われない現状に対して、当該の場で人種主義問題を扱う専門部署を設置することを要求しています。

 

 5)人種主義・人種主義批判のための担当職の設置

 4が政治・学問・メディアといった幅広い分野への要求であったのに対して、こちらは人種主義批判のための知の生産に向けた国家的な対応を求める要求です。

 

 6)人種主義批判の資格基準・実践の標準化

 連邦や州の助成の資格決定の際に、人種主義についての経験知および生活現実と関わっていること、つまり経験を「他者集団」として排他的に扱うような叙述・定義を再生産しないことを挙げています。

 

 7)財源配分正当性の即時転換

 DeZIMが財源を独占することに対して批判し、ドイツで「ブラック・スタディーズ」を進めるための機関を設立することを求めています。

 

 これら7つのテーゼは必ずしもDeZIMの取り組みを全否定するものではないと思います。ドイツ社会における人種主義批判の研究を深化させ、その成果を社会に定着するために行政が取り組むように訴える具体的な提案として興味深いです。

ハインリヒ・ヒムラーの業務日誌(1941・42年)のフリーアクセス――ハンブルク現代史研究所より

 2020年7月20日ハンブルク現代史研究所(Die Forschungsstelle für Zeitgeschichte in Hamburg)のウェブサイトに、ハインリヒ・ヒムラーの業務日誌(1941・42年)の公刊史料がアップされました。自由にダウンロードできます。

 

 

 商業利用の際には、ハンブルク現代史研究所の許可が必要との注意書きがあります。

 このハンブルク現代史研究所のウェブサイトにはこれまでの出版物についてのフリーダウンロードできるリストがあるのですが、上記の公刊史料についてはまだリンクが貼られていないようで、今はみつかりません。そのリストは以下のページの "hier" をクリックしてください。

 

 

 ちなみに、この公刊史料を編集作業に名を連ねたミヒャエル・ヴィルト(Michael Wildt)氏は2011年に来日し、ドイツ現代史学会シンポジウム「ドイツ近現代史における市民社会と暴力」で報告しています。

 西山暁義氏の問題提起と報告者紹介、そしてそのヴィルト氏の報告を修正・加筆した論考のリンク先は通りです。いずれも『ヨーロッパ研究』第12号(2013年1月)に掲載されています。

 

 

 ヒムラーの業務日誌については、2016年に1938年、1943年、1944年の史料が発見されたとの報道がありましたね。以下の記事をどうぞ。

 

 

フランツ・ファノンについて――ドキュメンタリーほか

  Piet Hansenさん――とくに知人でも何でもありませんが――が、2020年7月20日フランツ・ファノン(Frantz Fanon, 1926年7月20日ー1961年12月6日)の95回目の誕生日に寄せて、1996年に撮影されたドキュメンタリー映像の情報を発信していました。

 

 

 このYouTube動画をアップした、the postarchiveの説明によると、以下の文献(ダウンロード可)にこの映画についてのコメントがあるそうです。

 

 

 さすがにファノンともなると、ウェブ上での入門的な紹介も数多くありますね。

 

 

ファシズム理論の本――Mathias Wörsching, Faschismustheorien (2020)

 日本学術会議会員候補者の任命拒否問題の対応、歴史学の若手研究者問題関連の企画、またふつうに原稿の締切、校正など、ちょっと頭が追いつかない日々になってしまいました。

 久しぶりの投稿です。2020年7月14日にローザ・ルクセンブルク財団のウェブサイトで、ファシズムの理論についての書評が掲載されました。

 

 

 この著者であるヴェルシングさんは、2009年以降、ファシズム理論と題した以下のウェブサイトを運営してきたとのことです。この本は、1918年から1945年までのヨーロッパに集中したとのこと、その点はやや残念な感じですが、一般向けに分かりやすい事典的なものと評されています。

 

 

 こういう形での出版が現れる時代になりましたね。