浅田進史研究室/歴史学

研究・教育・学会活動ノート

ドイツにおけるブラック・スタディーズの緊急性にかんする7つのテーゼ――Generation Adefraより

 Generation Adefraというウェブサイトを知りました。このサイトを運営するADEFRA e. V. はドイツの黒人女性による、黒人女性のための「文化政治フォーラム(ein kulturpolitisches Forum)」と説明されています。

 

 

 ドイツにおける黒人運動の存在とその形成にとって、黒人女性の活動が中心的な位置を占めており、ドイツの場合、1980年代の黒人レズビアン活動家たちが重要だったと説明されています。

 そのウェブサイトに「ドイツにおけるブラック・スタディーズの緊急性にかんする7つのテーゼ(Sieben Thesen zur Dringlichkeit von Black Studies (in) Detuschland - Angeschichts der beginnenden Institutionalisierung von Rassismusforschung als Integrationsforschung)」が公開されました。これはローザ・ルクセンブルク財団の2020年7月21日付の情報で知りました。「7つのテーゼ」へのリンクはこちらです。

 

 

 このテーゼのきっかけは、2020年7月、ドイツ統合・移民研究センター(Deutsches Zentrum für Integrations- und Migrationsforschung, DeZIM)がドイツ連邦議会より、ドイツ社会のなかの人種主義を監視する「人種主義モニター」を作成するために、今後3年にわたって計900万ユーロの助成を受けることが決定したことです。DeZIMのプレスリリースはこちらからどうぞ。

 

 

 7つのテーゼに話を戻しましょう。ドイツにおける人種主義を研究する際に、もっぱらDeZIMに助成を行うことに対して、Adefraは批判しています。そのうえで、以下の7つのテーゼを掲げています。それぞれに簡単な解説をつけておきます。

 

 1)越境的・ディアスポラ的な運動史の知の承認

 ブラック・ライヴズ・マター運動のような国境を越えた運動の知の重要性を認めるように訴えています。

 

 2)反黒人的人種主義にかんする研究の認識論上の重要性の承認

 このテーマは白人研究者が自らのキャリアのために新しいテーマを生み出す市場となるべきものではなく、黒人研究者および黒人の(集合な)知の生産との交流を求めています。

 

 3)統合・移民モデルの克服

 既存の統合・移民モデルが人種主義的な生活現実を家父長主義的、またパトロン=クライアント関係のように扱うものとして批判しています。

 

 4)ロビー活動主義に代わる代表性

 人種主義の生活現実が政治・学問・メディアの空間で周縁化され、一時的にしか扱われない現状に対して、当該の場で人種主義問題を扱う専門部署を設置することを要求しています。

 

 5)人種主義・人種主義批判のための担当職の設置

 4が政治・学問・メディアといった幅広い分野への要求であったのに対して、こちらは人種主義批判のための知の生産に向けた国家的な対応を求める要求です。

 

 6)人種主義批判の資格基準・実践の標準化

 連邦や州の助成の資格決定の際に、人種主義についての経験知および生活現実と関わっていること、つまり経験を「他者集団」として排他的に扱うような叙述・定義を再生産しないことを挙げています。

 

 7)財源配分正当性の即時転換

 DeZIMが財源を独占することに対して批判し、ドイツで「ブラック・スタディーズ」を進めるための機関を設立することを求めています。

 

 これら7つのテーゼは必ずしもDeZIMの取り組みを全否定するものではないと思います。ドイツ社会における人種主義批判の研究を深化させ、その成果を社会に定着するために行政が取り組むように訴える具体的な提案として興味深いです。