浅田進史研究室/歴史学

研究・教育・学会活動ノート

第一次世界大戦後の帰属をめぐる東西プロイセン地域での住民投票――ドイツ連邦文書館ウェブサイトより

 ドイツ連邦文書館のウェブサイトには、「ヴァイマル共和国――最初のドイツ民主政」と題した、同文書館所蔵の関連資料についての特集ページが作成されています。

 

 

 そこに100年前の1920年7月11日に行われた東プロイセンおよび西プロイセンの一部地域で行われた帰属を決める住民投票を紹介するページがあります。

 

 

 1919年6月28日に締結されたヴェルサイユ講和条約にしたがって、ドイツは「ポーランド回廊」と呼ばれた西プロイセン州の大部分とほぼすべてのポーゼンの領土、東プロイセンの一部地域、ヒンターポンメルンが喪失しました。その一方、東西プロイセンの一部について、住民投票によって帰属を決めることになりました。

 このページには、ドイツへの帰属を訴えた当時の色つきのポスターもアップされています。

 さらに、ドイツ連邦文書館所蔵のデジタル化された、以下の関連史料へのリンクも貼られていました。ただ、ここでの直リンクは避けておきます。

 

  • Direktlink zum digitalisierten Aktenband R 43 I/379 mit Unterlagen zu der Volksabstimmung in Westpreußen 1920

 

 関連する研究として以下の文献を挙げておきます。

 

戦後75年、ドイツの記憶をめぐる政治について――ローザ・ルクセンブルク財団ウェブサイトより

 2020年7月に、戦後75年を記念して戦争とナチ支配をめぐる記憶に関する小冊子が、ローザ・ルクセンブルク財団のウェブサイトに掲載されました。リンク先は以下の通りです。PDFのマークがあるアイコンをクリックしてください。

 

 

 著者のヤン・コルテ氏は、1977年生まれの修士号をもつ政治学者であり、左翼党(Die Linke)所属の連邦議会議員で、2020年2月に『左翼の責任(Die Verantwortung der Linken)』という本を出しています。

 第二次世界大戦後、そしてナチ=ファシズムからの解放75周年である今年、新型コロナ感染症に対応せざるを得ない状況下で多くの記念行事が阻まれたと書き出しています。そして、ナチによる東部占領と絶滅戦争によって生じた犠牲者を追悼する中心的な記憶の場所が欠けていると指摘しています。

 ナチズムの過去との向き合い方、とくにソ連側の戦争捕虜が記憶から忘却されたことが論じられていますが、若い世代の左派政治家からのナチによる戦争犯罪への意見表明として読むことができるでしょう。

 

「世界で最も美しい本屋」――デア・シュピーゲル紙より

 2020年7月23日、ドイツの週刊誌『デア・シュピーゲル(Der Spiegel)』誌のホームページに「世界で最も美しい本屋」という記事が掲載されました。リンク先はこちらになります。

 

 

 世界の本屋を扱う書籍や記事は色々とありますが、こちらは以下の書籍の紹介記事です。

 

 

 デア・シュピーゲル誌の紹介記事では、9つの書店について写真と簡単な紹介が掲載されています。ドイツ語圏向けの記事なので、9軒中3軒がドイツの本屋でした。記事の写真もきれいですし、機会があれば訪れてみたいですね。

 

  1. Word On the Water (London)
  2. do you read me? (Berlin)

  3. Livraria Lello (Porto)

  4. Boekhandel Dominicanen (Maastricht)

  5. Buchhandlung Walther König (Köln)

  6. The Strand (New York)

  7. Shakespeare and Company (Paris)

  8. stories! (Hamburg)

  9. City Lights Bookstore (San Francisco)

 

家族の問題としての普仏戦争――Hypothesesより

 「人文社会科学系の研究ブログのためのプラットフォーム」を掲げるHypothesesというサイトを、ローザ・ルクセンブルク財団の情報から知りました。英語・フランス語・ドイツ語・スペイン語の各論説がオープンアクセスで閲覧できます。

 

 

 そのサイトに、2020年7月15日に「家族の問題としての戦争――1870年7月19日のプロイセン国王ヴィルヘルムの象徴政策」という論説が掲載されました。8月15日に更新されています。

 

 

 この論説の冒頭では、ドイツ帝国の成立に向けて、1870年7月19日に北ドイツ連邦議会は対フランス戦争を決議した直後、ヴィルヘルム1世は皇太子フリードリヒ・ヴィルヘルムと王弟カールをともなって、シャルロッテンブルクにある生母である故王妃ルイーゼの墓所を訪れたことを紹介しています。

 開戦の日は、同時に王妃ルイーゼが亡くなった60年目の節目の日であり、のちのドイツ皇帝となるヴィルヘルムI世は、この訪問によってプロイセン北ドイツ連邦中にその日であることを想起させたと述べています。

 ルイーゼは対ナポレオン戦争のさなかに亡くなり、1813年に創設された勲章である鉄十字章の別名、「ルイーゼ勲章」として解放戦争の守護者として扱われていました。1870年の対フランス戦争開戦の日にヴィルヘルム1世がルイーゼの墓所を訪れたことは、この戦争の意義を対フランス戦争の伝統と結びつける象徴的行為であり、また学校教育および民衆向けのメディアに宣伝し、「神話」を広める行為であったとのことです。

 また、この訪問によって対ナポレオン戦争とルイーゼの死が1870・71年の戦争と結びつけられ、同時にその甥ナポレオン3世、「新しいボナパルト」に対する戦争として語られ、王室の家族の問題に位置づけられたと指摘されています。

 この論説には、1870/71年の戦争後もこの「神話」を語る新聞記事、そしてこの訪問を描いた絵画が紹介されています。

 守護者としてルイーゼを様式化した「神話」の創造が君主政・戦争・ナショナリズムの3つの要素を結びつけたという問題だと思います。

 ちなみにこの論説の執筆者には「ルイーゼ神話」と題した単著があります。

 

 

 ドイツ語圏では「普仏戦争」ではなく、「独仏戦争」の表記が一般的ですが、この論説を読んで、いっそう意識することができました。

 

『ドイツ再統一後の東ドイツの歴史家たち』(2017年)について

 研究のためのメモ書きです。

 Sunny Pressから2017年にハードカバー版、2018年にペーパーバック版として、以下の論集が公刊されています。

 

 

 東西ドイツ統一後の東ドイツ歴史学の変容を論じたものでしょう。序章と終章ほか、15本の論考が寄せられています。

 史学史にはやはり関心があります。序章・第1章・第2章は読むとしても、自分の分野的にしっかり読みたいのは、経済史関連の第10章・第11章と植民地主義にかかわる第14章ですね。

 そのほかライプツィヒ大学についての事例研究なども気になります。

 

 以下、目次です。

 

Introduction ....... Axel Fair-Schulz and Mario Kessler

 

1. A Different Starting Point, a Different End: East and West German Historiography After 1945 ...... Mario Kessler

 

2. Where Did Historical Studies in the German Democratic Republic Stand at the Eve of Unification? ...... Georg G. Iggers

 

3. The Revenge of the Krupps? Reflections on the End of GDR Historiography ...... William A. Pelz

 

4. “Once Upon a Time . . .”: Losses in Scholarly Competence as a Result of German Unification ...... Helmut Meier

 

5. German Unification and the Debate of the West German Social Sciences ...... Stefan Bollinger

 

6. Anticommunist Purge or Democratic Renewal? The Transformation of the Humboldt University, 1985–2000 ...... Konrad H. Jarausch

 

7. Research on Fascism and Antifascism in the GDR: A Retrospective ......Kurt Pätzold

 

8. Painful Transition and New Research on the History of Political Parties in Germany ...... Manfred Weissbecker

 

9. Research on Conservatism in Jena: The Beginning and the End of an Interdisciplinary Research Project ...... Ludwig Elm

 

10. The Dissolution of East German Economic History at the Economic University in Berlin-Karlshorst: A Typical Anschluss Procedure ...... Jörg Roesler

 

11. The Dissolution of the Institute for Economic History at the Academy of Sciences ...... Axel Fair-Schulz

 

12. Dismantling the GDR’s Historical Scholarship: A Case Study of the University of Leipzig ...... Werner Röhr

 

13. From “Imperialist Class Enemy” to “Partners in Leadership” in 365 Days? East German American Studies Since 1989 ...... Rainer Schnoor

 

14. Handling GDR Colonial Historiography ...... Ulrich van der Heyden

 

15. Obscuring East Germany: The Phantom Menace of East Germany to Social Scientific Understanding of Post-Reunified Germany ...... Marcus Aurin

 

Conclusion: A Note on Research Directions and Literature ...... Axel Fair-Schulz and Mario Kessler

Appendix: Appeal from University Professors and Former German and Central European Refugees, from Frankfurter Rundschau, September 11, 2002

Contributors
Index of Names