浅田進史研究室/歴史学

研究・教育・学会活動ノート

戦時の新自由主義と権威主義的転回――IRGACより

 このブログでも、これまで IRGAC、すなわち International Research Group on Authoritarianism and Counter-Strategies(権威主義と対抗戦略に関する国際研究グループ)について紹介してきました。

 

 

 2023年4月16日、「戦時の新自由主義権威主義的転回」という論説が同グループのウェブサイトに掲載されまして、興味深いタイトルでしたので、リンクを貼っておきます。

 

 

 論説の冒頭を紹介します。

 著者は、トランプ政権やボルソナロ政権の選挙での敗北、そしてヨーロッパのいくつかの国での社会民主主義自由主義的勢力の勝利によって、民主主義的な正常化の幻想が広がっていると指摘しています。しかし、それはまさに幻想だと警告を発します。トランプ勢力やボルソナロ勢力が遅かれ早かれ回帰するかもしれない、という推測だけではなく、そう主張すべき2つの理由があるといいます。それは、第一に、それらの勢力が政治文化・イデオロギー的景観を長期的に変容させてしまったこと、第二に、過去数十年にわたって生じた経済的・社会的変容と切り離されたものではないことが挙げられています。

 

 この論説では、「新自由主義、『世界の新しい理性』」、「権威主義新自由主義」、「戦争仮説」、「感受性と欲望」と見出しが続きます。

 戦争の部分では、「新自由主義の合理性」が戦争状態にあるように自らを課す戦略をつねにとっていることが見過ごされがちだ、と指摘します。たとえば「テロに対する戦争」、「ドラッグへの戦争」、「サイバー戦争」のような漠然とした戦争だけではなく、金融的収奪・従属的な部門の負債という形態、デジタル資本主義における職場のアルゴリズム的管理、領土・地域における準軍事的暴力、家父長的賃金関係の危機を結果とした女性・性の不一致の人たちに対する攻撃、低所得者居住地域における都市再開発による地価高騰、環境破壊の犠牲となる圏域の創出などが挙げられています。