浅田進史研究室/歴史学

研究・教育・学会活動ノート

2020年度歴研大会特設部会を終えて

 

はじめに

 10月半ばまでこのブログで、2020年度歴史学研究会大会特設部会「『生きづらさ』の歴史を問うII――若手研究者問題について考える」に向けた準備ノートを掲載してきました。ところが、日本学術会議会員候補者の任命拒否問題に関わることになり、準備ノートがその時点で止まってしまいました。すみません。

 それでも12月5日10時~12時に予定どおり、特設部会はZoomミーティング方式で開催され、そこで日本歴史学協会若手研究者問題特別委員会側の報告者の一人として発表しました。

 歴研の大会サイト(主旨文あり)、日歴協側の報告資料、当日の報告&討論togetterまとめのリンクを以下に貼っておきます。歴研側の報告は大会増刊号の公刊までお待ちください。

 

 

歴研大会特設部会の準備

 歴史学研究会側の報告は、聴衆の方が「渾身の報告」と評していましたが、本当にしっかりと準備された報告でした。各部会アンケートのまとめ、さらにこの新型コロナ感染症の影響についてのアンケート結果報告は貴重なものになったと思います。

 この特設部会に向けて、打ち合わせ会、準備会、リハーサルと3度も平日20時以降(!)にオンラインで集まりました。歴研側はそれ以上に打ち合わせを積み重ねており、この問題に向けた歴研側の意気込みが分かるかと思います。

 日歴協側の報告は、先行して2020年10月19日にウェブ・アンケート最終報告&討論会を開催しており、いかにそちらの報告内容をこの特設部会の主題である「生きづらさ」に合わせて組み直すか、を話し合っていました。

 振り返ってみて、Zoomミーティング方式での開催は、こうした経験の乏しい組織運営側に心身ともに大きな負担を課すものだったと思います。この新型コロナ感染対応で、通常よりも日々疲労が蓄積されていくなかで、何とか終えることができたのは、技術サポートを担ってくれた方々も含めた多くの関係者の尽力の賜物です。

 

打ち合わせで議論していたこと、言い残したこと

  打ち合わせで議論していたこと、あるいはチャンスがあったら触れておきたいと思いながらも、当日に時間の関係で取り上げられなかったことをいくつか挙げておきます。

 

  • 歴史学関係の学会・研究会でこれまでに取り組まれてきた若手研究者問題への積極的な対応についての情報共有

 

 OD問題、大学非常勤講師問題、PD問題と「若手研究者問題」が議論されるようになってから、もう四半世紀以上も経ちました。現状の確認だけではなく、各学会・研究会がどういった取り組みを進めてきたか、そうした意見交換・情報共有が大切、というような意見が歴研側の委員から提起されていました。

 時間の関係と「生きづらさ」というテーマ設定のため、この点についてはあまり議論ができませんでしたが、今後、重要な取り組みになるでしょう。

 

  •  キャリア形成について

 

 特設部会前の準備ノートでも触れてきた気がしますが、歴史学と関わりをもつ研究・教育関係者・専門職がどのようなキャリアを積んでいくかについて、その多様なあり方を示す必要があると感じています。イメージしているのは、理想的なキャリアパターンというよりも、歴史学のすそ野の広さを示し、その関わり方の多様性を可視化することです。経済学部に勤めることになったわたしのパターンもありますし、そうした多様性を歴史学関係者・当事者が認識することで、この問題についての見通しについて、いっそう具体的にアプローチできるのではないでしょうか。

 それとは別に博士課程修了者が本人が希望すれば、研究者番号が付与される仕組みづくりは重要だと思っています。

 

  • 経済的困難への対応

 

 この問題は本来、いちばんに議論すべきテーマですよね。学会でできることは、すでに色々と提案していますし、できることはあると思います。

 非常勤講師組合の要求との連携、5年以降の無期雇用への転換を後押しする提言を出すことはできるでしょう。

 ただ、大学で歴史学のポストを増やしてほしい、という要求については、つねに文科省だけではなく、他分野との関係が出てきます。それぞれのデータに裏付けられた正当性を確保しておくことが必要だと思っています。この点で、歴史学ジェンダー平等やハラスメント防止対策は、その学問分野にとっての正当性に関わる問題になるのではないでしょうか。これらを怠っている学界は、他の学界に対してその維持や奨励の正当性を胸をはって要求することができるでしょうか。

 

提言作成に向けて

 いくつか作成しようと思っていたデータができていませんが、次の仕事が山積みでして、手の空いたときにぼちぼち更新していくつもりです。

 それとは別に日本歴史学協会若手研究者問題特別委員会として提言を作成する作業が待っています。年度末の完成を目指しています。引き続きこの活動に関心をお寄せいただき、出来る範囲でサポートいただければ幸いです。