浅田進史研究室/歴史学

研究・教育・学会活動ノート

2020年度歴研大会特設部会準備ノート(11)――人文科学分野および「史学」専攻の大学院生数と男女比の推移(1992-2019年度)

 

 はじめに

 前回、日本歴史学協会若手研究者問題検討委員会がウェブ・アンケート調査を実施するまでの経緯を紹介しました。*1

 このウェブ・アンケート調査を開始するにあたって、日歴協若手研究者問題検討委員会はウェブページを作成し、歴史学のなかで若手研究者問題への関心を高めるために、大学院拡充政策以降の人文科学分野および「史学」の修士課程・博士課程学生数の推移を整理した表を作成しました。リンク先はこちらからどうぞ。

 これは西洋史若手研究者問題検討ワーキンググループのウェブ・アンケート調査への、上村敏郎さんのコメントを参考したものです。*2

 上記の表はウェブ・アンケート開始時点に作成されたものですので、2013年度までになっています。

 また、ここでの「史学」はあくまで文部科学省の分類上の「史学」なので、実際に自らを歴史学と認識して研究に取り組む大学院生を網羅しているわけではありません。上記の資料の3枚目をみてもらうとわかるように、「その他」が激増しており、ここに相当数の歴史学専攻の大学院生が含まれることが予想されます。

 それでも文部科学省の分類上の「史学」の修士課程大学院生数が1992年度を100とすると、2013年に73へと27ポイントの減少、博士課程の場合、同じ期間に100から69へと31ポイントも減少しています。大学院拡充政策から20年を経て、文部科学省の分類上の「史学」の院生はおよそ3割も減少したということを、歴史学の若手研究者問題を考える際に、共通認識としてもつ必要があるでしょう。

 「その他」に分類される大学院生はどれだけ歴史学を専攻しているという自己認識をもっているのかは分かりません。国立大学法人化後、国立大学で度重なる大学院の改組の結果、「史学」という枠組みがみえにくくなり、その実態もわかりにくくなったと推測しています。こうした認識のうえで、学会・研究会活動のなかで、肌で感じる大学院生の減少という問題について考える必要があると思います。

 

1 人文科学分野各専攻の大学院生数の推移(1992-2019年度)

 さて、ここで2020年12月5日・6日に開催される歴史学研究会大会特設部会に向けて、2013年以降の人文科学分野および「史学」の大学院生の推移についてデータを更新しておきます。この作業での知見も議論の土台となるはずです。

 まず、修士課程と博士課程それぞれの大学院生数の実数に、1992年度を100とした指数を加えた表を作成しました。

 

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 「人文科学」全体も1992年度を100とすると、大学院拡充政策による増加のピークは修士課程で2004年度、博士課程で2007年度であり、それ以降減少傾向にあることがわかります。なかでも「文学」と「史学」の減少ぶりはすさまじいですね。「史学」は修士課程で1992年度の100から2019年度にそれぞれ58ポイントと42ポイントの減少、博士課程では同期間に100からそれぞれ53ポイントと47ポイントも減少しています。

 文部科学省の分類上の「史学」に含まれていないと予想される歴史学系の大学院生が「その他」にかなり含まれているでしょう。しかし、その「その他」でも修士課程と博士課程がそれぞれ2004年度と2007年度をピークに減少傾向にあります。

2 人文科学分野および「史学」の男女別大学院生数・男女比の推移(1992-2019年度)

 今回、人文科学分野の大学院生数の推移を男女別に整理してみました。人口減少時代のなかでも、学部の大学入学者数のある程度維持できているのは、女性の進学者の増加によるものです。それでは大学院生の場合にはどうか、その男女比はどう推移しているのか、と気になったことが作成の動機です。

 また、日歴協のウェブ・アンケート調査は「ジェンダー」を掲げています。議論の前に、この点についても基本的なデータを確認し、共通認識をもつべきでしょう。

 

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 これをみると、大学院生の場合も、女性の大学院生の増加が人文科学分野の大学院生数の減少を緩和していることがわかります。人文科学全体では、修士課程では1992年度の男女比が5:5であったのにたいして、2019年度は4:6となっており、博士課程では同期間に6:4から5:5になっています。

 「史学」でも、指数をみれば、男性よりも女性のほうが減少幅が少ないので、女性の大学院生の増加がその大学院生数の減少を緩和しているといえます。しかし、男女比でみると、「史学」はほぼ変化ありません。修士課程で若干の女性比率の増加、一時期の男女比7:3から6:4~5:5の間を推移しています。博士課程では1992年度の男女比8:2の後、7:3で一定です。

 また、修士課程から博士課程に進学するにあたって、男女比の不均衡が拡大することを確認できます。これには、「史学」自体の教育・研究環境の問題と社会全体の問題の2つの要因が考えられます。

 それにしても、「史学」博士課程の7:3は他の人文科学専攻と比べて不均衡が甚だしいです。この表では掲げていませんが、2019年度の「文学」の博士課程の男女比は4:6、「哲学」のそれは6:4です。「史学」自体の教育・研究環境の問題を省みる必要があるでしょう。

 文部科学省の分類上の「史学」に含まれない歴史学専攻の大学院生が含まれているであろう「その他」の場合、4:6~5:5の間を推移しています。文部科学省の分類上の「史学」の男女比と「その他」の男女比の関係について、もう少し考察するべきでしょうが、ここで推論を試みることは避けておきます。

 

所感

 今回、振り返ってみて、2013年度よりさらに「史学」の大学院生数が減少していたことを確認しました。減少しているだろうと思っていましたが、正直にいいまして予想以上でした。

 また、人文科学分野のなかでも、「史学」の男女比の不均衡ぶり、とくに博士課程についてのそれを確認できました。

 以上の2つの所見は歴研大会特設部会の議論に生かせそうです。

 今後、人文科学分野の大学院生数の減少傾向を確認しましたが、わたしは経済学部所属なので、いずれ社会科学分野の傾向についても確認しておくつもりです。

 近いうちに相対的「低学歴社会」としての日本社会というテーマに取り組むつもりですが、今回の所見と関連づけて考えていきます。