浅田進史研究室/歴史学

研究・教育・学会活動ノート

ナチ・ドイツによるウクライナ侵攻、1943・44年――nd紙の書評より

 プーチン政権下のロシアによるウクライナ侵略戦争が起きています。

 2022年2月1日、ドイツ語の左派系オンライン新聞、nd紙に、「限りない残酷さ」というタイトルで、1943・44年のナチ・ドイツによるウクライナ侵略における暴力を研究した本の書評が掲載されました。冒頭できわめてアクチュアルな歴史書と述べられています。

 

 

 出版社のリンクはこちらです。

 

 

 ハンブルク大学に提出された博士論文になります。ソ連邦の一部であったウクライナにおけるナチ・ドイツの征服・絶滅戦争を詳細に明らかにしているとのことです。以下、書評の前半部分を紹介します。

 ナチ・ドイツのウクライナ侵攻の過程で、ユダヤ、スラブ、ロマ、シンティの人々への大量殺戮、何百万もの人間の誘拐・追放(ドイツへの強制労働を含む)、さらには略奪がありました。国の産業の8割が占領によって破壊され、ソ連邦の穀倉と称された穀物収穫高はドイツ占領期に4割に落ち込んだそうです。ウクライナ人の半分が戦後、家を失ったとあります。

 また本書は、赤軍が攻勢に出て、ドイツ国防軍が退却する1943・44年の局面に焦点を合わせているそうです。ナチ指導部はその退却時に占領地を「焦土」化し、民間人と捕虜を殺害するか、あるいは最後の瞬間までドイツへ労働力として強制移送しました。生き残った住民たちは長期にわたって生存の基盤を奪われたことが論じられています。

 ソ連邦での大がかりな略奪の行軍過程はドイツ企業に大きな戦時利得をもたらしたことも述べられています。また、ドイツ連邦共和国は比較的早く西ヨーロッパ諸国で経済的な主要国にのし上がったこと、戦後西ドイツがヨーロッパ諸国と比較すると最も高い生活水準であったこと、さらに具体的に名を挙げながらナチ・エリートたちがふたたびすぐに権力をもったことが指摘されています。