浅田進史研究室/歴史学

研究・教育・学会活動ノート

東ドイツの中近東政策――ローザ・ルクセンブルク財団ウェブサイトの書評

 2020年7月1日、ローザ・ルクセンブルク財団のウェブ・サイトにドイツ民主共和国の中近東政策についての2冊の専門書を取り上げた書評が掲載されました。

 

 

 この書評は最初に、Welt Trendsという国際政治系の雑誌に掲載されたものとのことです(第164号、2020年6月)。

 書評の対象となった本は次の2冊です。

 

  • Jeffrey Herf, Unerklärte Kriege gegen Israel: Die DDR und die westdeutsche radikale Linke, 1967-1989, Göttingen: Wallstein Verlag, 2019
  • Lutz Maeke, DDR und PLO: Die Palästinapolitik des SED-Staates, Berlin: De Gruyter Oldenbourg, 2017

 

 最初のジェフリー・ハーフの本は、英語が原著で2016年に以下のタイトルで公刊されています。

 

  • Jeffrey Herf, Undeclared Wars with Israel: East Germany and the West German Far Left, 1967-1989, Cambridge: Cambridge University Press, 2016

 

 ジェフリー・ハーフの著作は、すでに日本語で『保守革命モダニズム――ワイマール・第三帝国のテクノロジー・文化・政治』(中村幹雄、谷口健治、姫岡とし子訳、岩波書店、1991年、岩波モダンクラシック版2010年)と『ナチのプロパガンダとアラブ世界』(星乃治彦、臼杵陽、熊野直樹、北村厚、今井宏昌訳、岩波書店、2013年)が出版されていますので、ご存知の方も多いと思います。

 評者のアンゲリカ・ティムは、ハーフの研究に対して、東ドイツの中近東政策が両ドイツ関係およびソ連の中近東政策と結びついていたことについての分析が不十分と批判しています。また、ハーフが西ドイツと対比して、東ドイツイスラエルをナチ国家の後継とみなし、できるかぎりユダヤイスラエルに害をなそうとしていた主張しているのに対して、公式の東ドイツ政治と世論では、ユダヤ系の人たちを犠牲者とみなしていたと反論しています。むしろ東ドイツの政治家たちの間では、西ドイツを「第三帝国の後継国家」とみなしていたと指摘しています。

 ルッツ・メーケ(Lutz Maeke)の研究、すなわち東ドイツパレスチナおよびPLO政策については、国内要因についての分析が欠如していると批判しつつも、PLO支部組織への東ドイツ政策の詳細な分析が新しい成果と指摘しています。

 専門から外れますが、とても興味深いテーマです。