以前にこのブログで、ドイツ語歴史学系ウェブサイト「現在の歴史(Geschichte der Gegenwart)」に掲載されたマイケル・ロスバーグさんの論説を紹介しました。ロスバーグさんは「多方向的記憶(Multidirectional Memory)」で知られるホロコースト研究者です。
この論説の本文中の表現「歴史家論争2.0」をタイトルにしましたが、これと関連させる形で、ジェノサイド研究者A・ディルク・モーゼスさんが「ドイツ人の教理問答」と題した論説を、同じく「現在の歴史(Geschichte der Gegenwart)」に寄稿しました。
この論説で、ディルク・モーゼスさんは、まず上記のブログでも紹介した、アチレ・ムベンベさんをめぐる議論やロスバーグさんの『多方向的記憶』のドイツ語版公刊をめぐる激しい議論に触れて、むしろ「当惑」していると書き出します。
なぜなら彼は、すでに2003年に、ロスバーグさんや、ドイツ領西南アフリカ(現ナミビア)での植民地戦争とアウシュヴィッツの連続性を論じるユルゲン・ツィンメラーさんとともに「ジェノサイドと植民地主義」というシンポジウムを開き、その成果を論集として刊行していること、そして多くの研究者の間で、ナチ体制とホロコーストの根本的な諸相が帝国主義的な植民地主義との関係によってはじめて把握できるという想定を共有するようになったからであると説明しています。
つまり、この研究潮流に身をおく立場からすれば、ナチズムの比較(不)可能性をめぐって争われたかつてのドイツ歴史家論争は、世界的なジェノサイド研究の視点では、すでに新たな次元に入っており、いまさらドイツでムベンベ事件のような問題で激しい論争になっていることを暗に批判したいのでしょう。
2000年代以降の研究は、ホロコースト研究をドイツから「脱地方化」してきたといいます。そして、2021年3月31日にロスバーグさんとツィンメラーさんは『ツァイト(Zeit)』紙に「比較を脱タブー化(Enttabuisiert den Vergleich!)」するという論説を公表し、激しい論争を呼んでいるとのことです。
その論説に対する激しい世論の反応から、この論説は、ホロコーストの唯一性・一回性など、5点に及ぶ「教理問答」を列挙しています。かなり挑戦的です。そのうえで、植民地主義・ジェノサイド比較研究をタブー化することを批判しています。
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