浅田進史研究室/歴史学

研究・教育・学会活動ノート

Z世代とナチズム――ターゲスシュピーゲル紙より

 2022年1月25日、ベルリンの日刊紙『ターゲスシュピーゲル(Tagesspiegel)』オンライン版に、「Z世代とナチズム――若者は親よりもナチ期に関心がある」というタイトルの論説が掲載されました。

 

 

 2つの新しい研究調査が紹介されています。それによれば、16歳から25歳の世代は、家族との関係ではなく、現在との関係でナチズムの問題に取り組んでいるといいます。

 

 以下、内容を要約します。

 最初の調査は、ナチ迫害の犠牲者・生存者の史資料収集を目的とする国際センターであるアーロルゼン・アーカイブス(Arlosen Archives)がラインゴルト研究所(rheingold Institut)に委託して実施されたものです。*1この調査結果として、Z世代はナチ独裁に高い感性をもっていると評価されています。

 16-25歳の年齢層は、40-60歳の年齢層と比較して、ナチの迫害というテーマに関心をもっており、前者の回答が75%に対して、後者は60%であるとのことです。また、自分の世代がこのテーマに積極的に取り組むべきだという回答でも、16-25歳の年齢層が73%に対して、40-60歳のそれは68%でした。さらに、このテーマが現在・未来にとって重要だと考えている回答も78%対71%と開きがありました。

 しかし同時に、若者にとってしばしばナチズムが魅力的に映ってしまう危険があることが指摘されています。その民族至上主義をもったナチ期が現在の自分の生活に対するアンチテーゼとして受け止められてしまうとのことです。

 また、過去-現在という二項対立の枠組みだけではなく、現在との並存、つまり、人種主義、排除、フェイク・ニュースという見方でナチ期が認識されていることも指摘されています。このZ世代は、今日、民主主義が危機に瀕していることを経験しており、ポピュリズム的、権威主義的、あるいは不寛容な発言をますます体験している世代でもあるとのことです。そのうえで、反ユダヤ主義がナチ体制の根幹であることが認識されていないと警句を発しています。

 しかし、このZ世代がほかの年齢層よりも、「日常の人種主義(Alltagsrassismus)」をより強く問題視していることは歓迎すべき、とも述べられています。16-24歳(表記のまま)までの年齢層の39%が人種主義を最重要なテーマに含まれると回答しており、40-60歳の年齢層ではわずか14%しかないとのことです。

 そのうえで、ナチのテーマがますます歴史化するほどに、若い世代がこのテーマにいっそう関与するようになっている矛盾について、心理学者のシュテファン・グリューネヴァルトさんの見解によれば、この世代は「個人的な罪」としてとらえておらず、直接の加害者の世代との直接の関係が切れており、それがかえって責任を担うという意識になっている、と説明されています。

 

 もう一つの調査は、記憶・過去・未来財団(Stiftung Erinnerung, Vergangenheit, Zukunft=EVZ)による「MEMO研究(MEMO-Studie)」です。それによれば、ナチズムへの取り組みへの個人的なかかわりは低い順位にとどまるとのことです。ビーレフェルト大学と共同で行われたこの調査は、16-25歳までの年齢層でナチズムの過去との社会的な取り組みに関心をもつが、家族との関係からの意識は「ほとんどない」、「全くない」と回答しているとのことです。

 ただ、憂慮すべき点として、調査に参加した2割が、ナチズムの抑圧と新型コロナ感染症における基本的な権利の制約とにそれほど違いをみずに比較していることが挙げられています。その点から、歴史修正主義的な語りに感化されてしまう可能性があり、この点で歴史政治教育が果たす役割がまだあると述べられています。

 

 ラインゴルト研究所の調査についてのリンクはこちらです。

 

 

 記憶・過去・未来財団のMEMO研究へのリンクはこちらです。ページの下の方に各年版へのリンクがあります。

 

 ドイツ歴史教育歴史認識をテーマに卒論を書きたい人にいいかと思います。