浅田進史研究室/歴史学

研究・教育・学会活動ノート

ベルリンの占領博物館計画をめぐって――taz紙より

 2022年7月26日、taz紙より「ベルリン占領博物館――自己満足、視野を狭める」と題した記事が掲載されました。

 

 

 リード文では、ドイツ歴史博物館(Deutsches Historisches Museum)が示した建設予定の、第二次世界大戦期にナチ・ドイツが占領した地域の歴史をテーマとした占領博物館についての提案が、民族や共犯者たちへの視点を欠いていると批判しています。

 

 この記事によると、ドイツ連邦議会は、2020年に「記憶の場とポーランドとの出会い」と記録センター「第二次世界大戦とヨーロッパにおけるドイツの占領支配」を建設することを決定しました。それは、ナチ犯罪についてのドイツの記憶に関する取り組み――「躓きの石」、かつての強制収容所、ベルリンの祈念施設――が、ドイツ人に限定され、数百万のドイツ人以外の犠牲者については欠けているという認識に基づくものです。そこでポーランド関連については、外務省が計画し、ドイツの占領支配については、ドイツ歴史博物館が担当することになったとのことです。

 

 この記事の時点で、ドイツ歴史博物館が提案した占領博物館計画は、既存のナチ支配に関する記録・祈念施設と重複する部分がかなり多く(9つの重点のうち5つ!)、これまでの取り組みを補完するというよりも、記憶・解釈・訪問者数の点でそれらと競合してしまうと批判されています。

 そのうえで、建設される占領博物館が重点とすべきは、強制労働とユダヤ教徒への虐殺とならんで、ヨーロッパ占領地における民間の一般住民、つまりポーランドギリシアセルビアベラルーシ、ロシア、ウクライナなど、きわめて多様な民族に行使された暴力であると主張されています。

 そして、その際に生じた大規模な犠牲の要因には、人種戦争、飢餓と疫病、村の無差別撤去、強制移送、「ゲルマン化」、知識人や政治的・宗教的エリートの殺害が挙げられており、こうした点により配慮すべきという論調になっています。

 また、捕虜となった兵士たちの犠牲や占領以前のドイツによる攻勢や絶滅戦争についても、言及に乏しいことが指摘されています。さらに、ドイツ占領軍と現地社会との関係性の問題や、また後段では性暴力などの点も提示されていないと批判されています。

 

 フンボルト・フォーラムについてもそうですが、博物館のオープン前にその展示内容が公共空間で激しく議論されることは、決してマイナスなことではなく、むしろ非常に有意義だと思います。今後、どのような展示内容になっていくかがとても興味深いです。