浅田進史研究室/歴史学

研究・教育・学会活動ノート

アイデンティティ・ポリティクスとしてのドイツ歴史建造物――ローザ・ルクセンブルク財団ウェブサイトの書評より

 ちょっと興味がわいたので、ここにメモしておきます。

 2024年5月2日にローザ・ルクセンブルク財団のホームぺージに、"Bauen am nationalen Haus: Architektur als Identitätspolitik(国民の家を建てる――アイデンティティ・ポリティクスとしての建築)"という本の書評が掲載されました。

 

 

 この本では、ここ20年のうちに建設された「歴史的再建」と位置づけられる、4つの建築物が批判的に分析されています。それはポツダムのガルニゾーン教会(Garnisonskirche、駐屯地教会の意)およびその教会塔、ベルリンのフンボルト・フォーラムが入っている建物、つまり再建されたベルリン王宮、フランクフルト・アム・マインの「ノイエ・アルトシュタット(新旧市街)」、デッサウのバウハウスによる「マイスターホイザー(Meisterhäuser)」です。さらに、以前の例、つまり1946-48年に再建されたフランクフルト・アム・マインパウロ教会の事例についても分析されているとのことです。

 ここでは、第二次世界大戦によって破壊されたベルリンやポツダムの歴史的建造物が、王朝、植民地主義軍国主義を、そしてまた臣民精神、服従国民主義を理想化するものであることが指摘されます。その参照点がホーエンツォレルン王朝であり、それらは21世紀に期待される、啓蒙、解放、自由といったものではない、と批判されています。1950年に撤去された王宮跡に、1976年にドイツ民主共和国の議会「共和国宮殿(Palast der Republik)」が建設されましたが、多くの反対にもかかわらず、共和国宮殿は撤去されました。そこにベルリン王宮が再建されたわけです。この本では、再建を主導し、資金を提供した関係者の名前が挙げられ、右翼ポピュリストの陣営に属することが確認されているそうです。

 この書評では、ほかの事例についても紹介されています。卒論によさそうなテーマですね。