浅田進史研究室/歴史学

研究・教育・学会活動ノート

ドイツ記憶文化をめぐる「和解劇場」論について――マックス・チョレック氏の近著より

 2023年2月5日にダス・エルステ(Das Erste、第1ドイツ・テレビ)局より放送された、作家マックス・チョレックによる近著『和解劇場』を取り上げた番組が放送されました。

 

 

 2023年1月、作家であるチョレックさんは『和解劇場』というタイトルの本を出版し、ドイツの記憶文化の一方向性を批判し、すでにベストセラーとなっています。出版社のリンクはこちら。

 

 

 上記の番組紹介ページでは、チョレックさんがドイツの「過去の克服」を模範的なものと自己認識する「和解劇場」と表現し、それでは記憶のインフラがドイツを新たに発明する出発点になる段階として説明されています。その記憶文化は、ドイツがホロコースト記念碑を建設し、そのように記憶しているので、ドイツはふたたびドイツを誇り、リーダシップを主張することが許される、という意識に基づいていると指摘します。

 記念碑を掲げ、躓きの石を設置する、それによって今日までのドイツの記憶の礎があるとしても、しかし、それらの象徴的な記憶は、過去からドイツのアイデンティティを軽くするものとして機能するにすぎず、それは真の正義の回復ではないと批判します。

 この記憶文化では、ユダヤ教徒は、犠牲者としての役割、それもできるかぎり和解的である役割が求められているといいます。「和解劇場」の中心的な目的は、ドイツ史への肯定的な状況の再建することであり、その象徴がフンボルト・フォーラムの外観にみられるプロイセン王の居城の再建のような矛盾した支配の歴史の再現であると指摘します。

 最後に、記憶文化は、過去を繰り返さないために、現在を志向することが求められており、それは人間がもはや迫害され、殺害されない空間を作り出すことだ、と主張します。そして、そこでは人びとの暴力経験を少なくする、あるいは暴力から守られなければならないといいます。

 

 彼の「和解劇場」論は、2021年5月11日に、ドイツ連邦政治教育センターのウェブサイトに掲載されています。

 

 

【2023年7月10日追記】

 2023年5月14日、ドイツ語圏の左派系ジャーナル Jacobin Magazin のYouTubeチャンネルで、「アイデンティティ政治後に何が来るか」という討論番組に、社会学者リーヌス・ヴェストホイザーさんとともに、マックス・チョレックさんも出演しています。リンクを貼っておきます。

 

 

【2023年9月12日追記】

 チョレックさんの『和解劇場』についての書評がローザ・ルクセンブルク財団のウェブサイトに転載されました。初出は、iz3w です。リンクは以下の通りです。